医療と経済の危機という意味で、新型コロナウィルスは私たちが一生のうちに遭遇するグローバルな課題の最たるものと言える。現在、世界人口の3割以上が何らかの形で移動を制限される一方、ほとんどの産業が大幅に縮小することにより、労働者が収入と雇用の喪失の脅威に直面している。
医療や社会サービス、サプライチェーン、公共交通に従事する勇敢な労働者たちは、自らの健康を危険にさらしながら、この危機の前線で闘っている。
この危機によって、経済や都市の社会生活の中で公共交通サービスが極めて重要な役割を果たしていることが明確になった。医療や救急サービスに従事する必須サービス労働者も、通勤のために公共交通に依存している一方で、国民全員が感染の有無を特定する検査や医療サービスを受けたり、生活必需品を買ったりする際に公共交通を利用している。とりわけ、女性は基本的サービスを受けるためや、介護・育児などのために公共交通への依存度が高い。
公共交通労働者は、この緊急事態への対応に不可欠な存在だ。雇用の正規、非正規を問わず、何百万人もの労働者がこの危機が続く中、公共交通を動かし続けている。例えば、公共交通の運転や切符の販売、車掌サービスや車両の保守、事務処理などの業務に従事する労働者は市民の安全と健康を保つために必須のサービスを提供し続けている。
したがって、公共交通労働者の健康と収入、雇用を守ることは、このパンデミックに対応し、そこから回復する上で肝要だ。その極めて重要な役割と公共的な機能を考慮し、公共交通労働者の健康を保障し、人間らしい雇用を約束することは、労働者自身にとって重要なだけでなく、国民全体の健康と生活にも資する。
公共交通労働者は自身や乗客に危険が及ぶことを最小限に抑えながら、業務を安全に遂行できてしかるべきだ。公共交通では乗客に対応しなくてはならない仕事が多く、労働者は職場で暴力を受けることに加え、ウィルスに感染したり、感染を広めたりするリスクも高まっている。
若年層は重症化しにくいと言われているが、適切な個人用防護具が提供されなければ、青年労働者もまたウィルスに感染したり、感染を広めたりするリスクは同様に高い。
安全衛生対策は労働者の雇用形態に関わらず提供されるべきであり、ジェンダーの違いや移民かどうかなどの特性も考慮したものでなければならない。公共交通部門は現在、男性優位的かつ性別による職域分離傾向が高いため、新しい対策が講じられる場合は、女性が意思決定に参画できるようにする必要がある。
これを実現するために、公共交通当局や企業は労働組合と協議し、以下を担保するべきだ:
- 仕事内容に関わらず、必要に応じ、全ての労働者に手袋、マスク、消毒液または水と石鹸を含む適切な個人用防護具を提供する。
- 新型コロナウィルスの検査や治療の無料化を含む、適切かつ包括的な医療サービスの提供。
- 職場の感染やその他のリスクに関して、会社が講じた新型コロナウィルス対策に関する情報を、仕事内容や雇用形態に関わらず、素早く全ての労働者に提供する。
- 妊婦や新生児を抱える労働者など、感染しやすい労働者やリスクの高い労働者、あるいはそのような家族を抱える労働者が収入を失うことなく、仕事のスケジュールを調整できるなどの、適切な保護策を講じる。
- 運賃の収受停止、キャッスレス決済、検札中止、乗客の後方ドアからの乗降、運転手席のドア閉鎖、車両前方座席を閉鎖し、一台に乗車できる乗客人数を制限するなど、ソーシャル・ディスタンシング(他人と物理的距離を保つこと)の基準に適合した方策を取る。
- 公共交通の職場や車両、仮眠室などについて、定期的に厳格な清掃・衛生手続きを実行する。
- 例えば、感染のための隔離や、育児の必要性など、直接的または間接的に新型コロナウィルスの影響を受けている労働者に十分な有給休暇を与える。
- 特に、労働者が多く利用していた公共施設が閉鎖される場合、ITF交通運輸労働者衛生憲章の規定に沿った適切な衛生措置を備えた設備と休憩所を提供する。これは乗務員であれ、デポ勤務であれ、ターミナル勤務であれ、保守であれ、顧客サービス係であれ、全ての労働者に適用されるべきだ。
- 移動の制限が課されている場合の公共交通労働者の通勤手段の提供を含め、安全な通勤手段を提供する。
新型コロナウィルスに伴うソーシャル・ディスタンシングとロックダウン(都市封鎖)の結果、公共交通サービスが減少している。こうした状況が発生している場合、公共交通当局と企業は以下を保障するべきだ:
- 必須サービス労働者が通勤できるよう、最低限のサービスを維持する。
- 労働者や乗客が安全に移動できるよう、あらゆる最低限のサービスを手配する。
- 労働者の労働条件や雇用を守り、雇用形態に関わらず、引き続き収入を得られるようにする。
- 労働者の労働条件を維持している企業という条件付きで、公共交通の運営を財政的に支援する。
世界の多くの都市で、公共交通をインフォーマル労働者が支えている。インフォーマル労働者の割合が都市交通の労働力の85%に達する都市もある。また、女性や青年も都市交通で多く働いている。青年は特に有期の非典型的雇用形態で働いている傾向が高く、社会保障や医療保険の適用を受ける機会が限られているか、全く受けられない。そのため、青年は適切な保護や補償も行われないまま、レイオフされたり、労働時間を短縮されたりする可能性が高い。
移動が突然制限されたり、禁止されたりすると、インフォーマル交通運輸労働者は生活の糧を得る手段を失うか、日給を稼ぐために、健康リスクを抱えながら働き続けるしかなくなる。地域経済に不可欠な、こうした労働者を保護する必要がある。
そこで、ITFは各国の地方自治体や中央政府に以下を保障するよう求めている:
- 公共交通サービスが制限されている、あるいは封鎖されている都市では、雇用の正規、非正規を問わず全ての公共交通労働者を対象とした所得補償や現金給付を提供する。乗客が減少したためにインフォーマル労働者の収入が減少した場合も補償の対象とする。
- 食糧、医療、衛生用品の提供、ローン、賃料、公共料金の支払い免除、育児・介護などの支援を含む、現実に即した一連の支援策を提供する。
都市生活にとっての公共交通の重要性については、交通運輸労働者や労働組合が長らく強調してきたが、このことが、新型コロナウィルス危機によって浮き彫りになった。世界には、公共交通が再国有された国や都市もある。しかし、この損失とリスクの時期に、公共交通を政府が国有化し、後に利益を上げる機会が出てきた段階で再び民営化する事態をITFは許容できない。
新型コロナウィルスを乗り越えた後に、都市の経済や社会生活を再建する際、公共交通サービスは必要となるだろう。そして、気候変動の問題に対応するためにも、都市交通は拡大され、改良されなくてはならない。そのような重要な産業においては、常に、利益ではなく人が優先されるべきだ。
この危機が続く中、危機の結果、公共交通が被った負債にどう対応するかについて、政労使と市民社会は、実現可能な解決法を探っていく必要がいずれ出てくるだろう。しかし、これはまた、男女を問わず、そこで働く労働者に良質の雇用を提供することなど、社会と経済の優先課題に対応する公共交通を築いていく機会でもある。そのためには、ジェンダー別の影響アセスメントの実施、より民主的な運営、人間らしい雇用の維持と拡大など、市民の利益を増大するための目標がしっかりと達成されることを条件に、公共交通への長期的財政支援が行われなくてはならない。
このような危機の時代にも、また平時にあっても、公共の利益を優先させる公共交通モデルこそが、何百万人もの人々が求める良質のサービスを保証できるのだ。
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