エジプトのCOP27に世界のリーダーたちが集う中、ITFプロジェクト・コーディネーターのブルーノ・ドブルシンがサンチアゴ(チリ)で実施されている「公正な移行」に関する取り組みを紹介する。
チリの組合が団体協約に「公正な移行」条項を盛り込んだ。この取り組みは、2021年に地下鉄労組連合 (FESIMETRO)が地下鉄労働者の「公正な移行(ジャスト・トランジション)」の概念について、ITFと協議を開始したことに端を発している。労働者側は、気候変動や新技術の導入の影響についてよく認識していたが、それらを議論し、「公正な移行」をめぐるグローバルな議論と連携させながら、最終的にはローカルのレベルで実行する機会がなかった。
サンティアゴの地下鉄労働者1,500人以上を組織するこの組合は、組合員との協議を開始すると同時に、さまざまな交通モード(バス、タクシー、二輪車)を組織する他の公共交通労組との調整も開始した。その目的は、公共交通に従事するさまざまな労働者グループのニーズを統合する「公正な移行」戦略を考案し、集団としての対応を調整することだった。
組合員との協議や議論を重ねるうちに、地下鉄の効率化、持続可能化を目的に導入される新技術が労働者に悪影響を与えていることが明らかになった。技術自体は労働者の健康、場合によっては労働条件全体を向上させる可能性があるものの、協議が十分になされず、拙速な導入が行われようとしており、適切な計画も欠如していた。労働者と組合が積極的に関与することはなく、包括的な対応を行う時間もなかった。
2022年5月に新たに始まった団体交渉で、FESIMETROに加盟する地下鉄労組の一つ、地下鉄労働組合(スペイン語でSindicato Metro、連合加盟4組合のうち最大)は、気候変動と公正な移行を団体交渉の中心に据えることを決定した。
そして、長期間にわたる組合員との協議プロセスを開始し、問題の理解に務め、交渉の場で使用者に問題への対応を迫れるようにした。
2022年7月、二カ月にわたる激しい労使交渉の末、新協約が締結され、地下鉄史上初の「公正な移行」条項が団体協約に盛り込まれた。この条項は、労働者や地下鉄システム全体にとって懸案となっている気候変動問題を前面に押し出す章で始まっており、気候変動問題が地下鉄の運行や労働条件に影響を及ぼすこと、また、使用者は組合と共にこれらの影響に対応していく必要があることが明記されている。
協約には、大規模な新技術や製造行程の導入の際に労使協議を行う「公正な移行労使協議会」の設置も盛り込まれた。労働者は新技術の導入に伴う懸念や課題のほか、労働者独自の提案を「公正な移行労使協議会」に対して行うことができる。
協約はもともと、技術の問題に焦点を当てていたが、地下鉄運行に関連する他の気候関連問題への対応にも道を開くものであり、この種の協約としては国内(そしておそらく地域)初である。「公正な移行労使協議会」の委員の男女比を均等にすることも明記された。
交通運輸産業全体で公正な移行を実現するためには、このような抜本的かつ実践的な変革が求められる。